大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和47年(さ)4号 判決 1973年3月08日

主文

原判決中、法令の適用において沖繩の刑法五六条一項、五七条を適用して累犯加重をした刑期範囲内で被告人を処断すべきものとした部分を破棄する。

理由

検事総長竹内壽平の非常上告趣意について。

一件記録によると、昭和四五年(一九七〇年)一〇月二三日、旧那覇簡易裁判所は、被告人に対する沖繩の刑法の傷害被告事件につき、一個の傷害の犯罪事実および被告人は同年五月二一日琉球政府の那覇地方裁判所において殺人罪により懲役一〇年に処せられ目下その刑の執行を受けている旨の事実を認定し、かつ、沖繩の刑法二〇四条を適用しその所定刑中懲役刑を選択したうえ、右前科のあることを理由に同法五六条一項、五七条により累犯加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処する旨の判決を言い渡し、同判決は、上訴申立期間の経過により、同年一一月七日確定したことが明らかである。

しかし、同法五六条によると、未だその刑の執行が終了していない前科は累犯加重の事由となる前科にあたらないことが明白であるから、原判決が前示前科の刑が執行中であることを認定しながら、同法五六条一項、五七条を適用して累犯加重をした刑期範囲内で被告人を処断すべきものとしたのは、右各法条の適用を誤る法令違反をおかしたものというべきである。よつて、沖繩の復帰に伴う特別措置に関する法律二七条一項、刑訴法四五八条一号本文により原判決中右違反部分を破棄することとし、なお、原判決認定の本件犯罪事実、前示前科の存することおよび原判決により言い渡された刑期等を考えると、原判決が被告人のため不利益であるとはいえないものと認められるので、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(藤林益三 大隅健一郎 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

(参考)

原判決認定の本件犯罪事実

被告人は一九七〇年九月九日午前八時五〇分頃沖繩刑務所内の第二木工場内において、服役中の甲(二二年)と同日午前七時四五分頃取つ組合の喧嘩をした挙句、同人より「お前が殺人犯ならなにか」と云われた事等を思い出して憤慨し、刃体約二四センチメートルの両刃鋸を右手に持つて同人の左脇腹めがけて切りつけ、因つて同人に全治一週間の治療を要する左側胸部切創の傷害を負わせたものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例